『2020年を振り返って』
代表委員会チーフ
渡辺尋志
『 動く水 』(2018)
こんなことが起こるとは誰も想像すらしなかったでしょう。まさか…この時代にウイルスの流行で何もかもが動きを止め、立ち止まり、進むべき方向を探し求める日々が来ることを知る由もないはずです。
<不安定な世にこそ芸術・美術は発展を遂げ進化する。>と学生時代に美術史の先生に聞いた記憶が残っています。今回の感染症は全世界を不安定に陥れ、人類の存在すら否定して一気に地球規模で広がりました。
こんな中発展・進化を遂げる作家や作品はあっただろうか?日本の美術を担ってきた各美術団体にも変化はあっただろうか?・・・多分目立った動きはなかったかもしれません。
ただ、このような状況の中で一番に変化したことは、美術家で今まで興味すら示さなかった方達も「IT」と付き合うことの重要性に気がつき始めたということだと思います。
まずは、コミュニケーションの方法としてのPCによるテレビ会議、作品発表の場としてのウェブサイトの存在、作品造りのための道具であり材料にもなり得るデジタルの可能性への気づきが一番の変化かもしれません。
そもそも、作品を作るためには古代から続く技法や材料を手仕事で進めなければなりませんし、そこを省略することはないだろうと思っていた作家が殆どだと思います。そして、コミュニケーションにおいても顔をつきあわせて怒鳴り合い、なだめ合い自分の存在と作品の善し悪しを見つめることが正しい作家の在り方だと思っていた方が多かったのではないでしょうか。
デジタルが全て正しいわけではないと思います。しかし、新しい可能性を見つける手段として未来へ繋ぐきっかけにはなると思います。
少なくともこの1年で新制作協会の彫刻部には変化がでてきたと確信しています。ようやくですが、未来への扉を開け広げる鍵を手にしてこれからの美術界を先導できる存在になっていくことを期待出来るかもしれません。
協会HP会員ページ 渡辺尋志
コロナ禍がもたらしたもの
オンラインによるコミュニケーションについて
絵画部チーフ
樺山祐和
『 風 』 (2020)
新制作協会は他の公募展に先立ち84回展の中止を決定しました。中止に関しては様々な意見がありましたが、その後の状況を振り返れば正しい決断でした。その迅速さは、その後の展開を考える時間的な余裕を生み、各部は独自の企画を立案し実現する事となりました。会議、協議はすべてオンラインで行われ、初めは慣れないゆえに戸惑うこともありましたが、慣れはオンラインによるコミュニケーションを日常に変えてゆきます。
絵画部はバーチャル美術館展示を行いました。この国立新美術館を模したバーチャル空間での作品展示は、作品を展示することの意味を考えさせるものであったと思います。作品そのものをモニターで見ることは通常の事ですが、展覧会の様子が感じられる展示空間を出現させ、その雰囲気を醸成できたことは今後に向け大きな意味があると思います。
その一方で、仮想空間が現実空間に近づけば近づくほど、美術を志す私たちは、その違いをより強く感じ取り、現実の手応えが何であるのかを確認しようとします。
コロナ禍は既にあったオンラインによるコミュニケーションを誰もが接する日常的なレベルに押し下げました。この視覚と聴覚を刺激するツールは私たち人間のコミュニケーションのあり方を、どのように変質させてゆくのか。
かつてカメラが発明されるまでは世界には異なる遠近法が存在していて、そこには人間の世界への生な眼差しが現れていました。カメラの出現は私たち人間の視覚を機械的な均一な方向へと導いてきたのですが、このオンラインによるコミュニケーションも私たちを均質化と均一化へと導くものなのか。均質化、均一化は私たちが最も遠ざけなければならないものだと思います。殊更このようなことに言及するのは、それが表現において通奏低音のように関係していると考えるからです。
コロナ禍によって生じた様々な状況は、私たちにコミュニケーションの意味や美術とは何かといった本質的なこと。そしてテクノロジーと美術の関係、現実と仮想などの様々なことを改めて気づかせ考えさせるものでした。それは新制作展の今後に少なからず影響するものだと思います。
協会HP会員ページ 樺山祐和
『2020年/新制作×COVID-19 メモランダム』
スペースデザイン部チーフ
金子武志
『 A ⇔ Z (Password,please!)』(2015)
2020年の代表委員というのはさぞ忙しいだろうと思っていた。東京でオリンピック・パラリンピックが開催される年の新制作展はどんなであろう、と..。
想定外の理由で忙しくなったこの数ヶ月、3月過ぎから現在まで代表委員として関わった私のメールは数えると約250件もある。未曾有の出来事に対応する色々なやり取りを委員長・副委員長・代表委員はじめ各委員や事務局の方々と共有してきた。
対面による代表委員会は2月23日が最後であった。3月に入ると国立新美術館は臨時休館になり、展覧会運営の起点となる合同委員会も延期。開催の可能性を信じつつ4月初旬入稿予定のポスターやチラシなどの印刷物は最終の仕上げを進めるも、4月に入った頃には中止を視野に入れる状況となった。
4月7日、緊急非常事態宣言が発令され5月末まで及ぶことになる。実施か中止か、各部で手分けをして会員一人一人に今後の方向性を確認する。4月19日、緊急の代表委員会をオンラインで開く。これを機にその後は全てZoomによるやり取りが主となる。
84回展は残念ながら次年度に延期が決まり、会員、協友、そして一般出品者、美術関係者、業者、関係諸団体へ報告。開催が無くなった2020年のこれからをどうするか皆が知恵を巡らせた。絵画部・彫刻部はWEB展覧会を開催する。事務局は期間限定でメルマガを配信する。そしてスペースデザイン部もSD通信をスタートさせ来年3月に企画展を計画する。いずれも創作の歩みと対話を止めないための工夫と努力であり、新たなチャレンジのカタチでもある。
自粛と同時に社会の至る所で少しずつ手探りで活動が始まる。総会(10/4)が開催された数日後、私は恐る恐る国立新美術館を訪れてみた。事前に予約して企画展を観覧したが、本当の目的は馴染みの場所が変わらずにあるのか確かめたかったからからだと思う。来年こそはここに多くの作品が並びますようにと祈り、アファメーション(Affirmation)を呟いてみる。「2021年9月15日、本日第84回新制作展が始まりました....」
毎年開催出来て当たり前と思っていたいた新制作展だったが、どのように始まり、どのようなご苦労があってここまで続いてこれたのだろう、、、私たちもどのような経緯で新制作と出会い作品を発表し続けてこれたのか、、、色々と振り返ることが出来た数ヶ月でもあった。
協会HP会員ページ 金子武志