事務所日記


彫刻部特別企画2020

ー作家それぞれの作品制作風景ー 第2弾に登場する高家先生にお話を伺いました!

 

こんにちは。新制作協会事務局です。

今回のメルマガVol.5では「彫刻部特別企画2020 作家それぞれの作品制作風景」より、第2弾(石を彫る)高家理先生の動画のURLをお届けさせていただいています。

 

高家先生は福島県の川俣町にある高太石山の採石場に工房を構え、水や電気のインフラの整っていない環境で制作をされているとのことです。動画の中の風景はとても美しいのですが、なぜそのような山の中で制作をされているのかとっても気になります。今回は、高太石山とのご縁や制作についてお話をうかがってみました。

 

第2弾《 石を彫る 》高家 理(こうけ おさむ)

「無限のひとひら」2020年

  107cm×50cm×50cm

  高太石(花崗岩)

会員ページ 高家 理

 

― これまで、完成した状態でしか作品を拝見したことがなかったので、石彫の制作風景を拝見して驚きました。原石は岩のようだし音もすごいし、削るたびに石の粉が砂塵のように舞っていて。また動画冒頭では、工房の手前に大きな石がゴロゴロ転がっていましたが、高太石山の採石場とはどんなところですか。どういったご縁でその場所にたどり着いたのかも、とても気になります。

 

 

初めに石を彫ったのが二十歳の大学2年生の頃だったんですが、僕は岩手大学に通っていて、その時の大学の先生が盛岡彫刻シンポジウムの世話役のようなことをしていました。外部から作家を呼んで岩手県の姫神山にある姫神小桜石という御影石の採石場で集団生活したことがありました。電気もない水道もない山の中でシンポジウムを開催する意味を解りもせず、わけもわからず参加をしました。振り返れば、それが原点になっていて、今、していることとあまり変わらないと思います。

 

現在、工房を構えているのは福島県の高太石の採石場の跡地で、山全体が土を彫れば石が出てくるようなところですが、大きな石を割り出す採石場(丁場)としての役割は終えている山です。大きな石を製品として出荷する際にたくさん残材がでるのですが、残材といっても何十トンもあるような石で、僕達から見れば宝の山のようなところです。

岩手大学を出てから個人の石彫家の元で修行をしたり、墓石を彫るアルバイトをしたり、大学を離れた新たな石の加工の現場で暮らしていました。山で原石を彫るということが10年以上ありませんでしたが、ある時、山でやった時の石とは違うのではないかと思うようになりました。

 

そこでまず石の産地で直接原石を買うことから始めてみました。宮城県の丸森町の山にイサム・ノグチがよく使っていることで有名な伊達冠石の丁場があり、人工加工されていない原石から作業をするようになりました。当時1トンのピックアップトラックで買い付けに行っていたんですが、だんだん往復するのが面倒になって・・・。トラックにテントを張れば生活できると思い、トラックで生活するから、採石場の片隅で制作させてくれとお願いをしました。そうしたら、そこに造形研究所という施設があって彫刻家がいたんですね、そこで道具は持込みでわずかな使用料で作業させてもらえることになりました。

 

ある日、その採石場にお客さんが来て、僕が作業をしているところに、うちにも山があって採石の残材があるよ、と言ってもらえて、その山を見に行ったら石の質は違うけれどすごくダイナミックな原始的な風景が広がっていて、僕は一目でその山が気に入りました。そこが現在の工房を構えている福島県の高太石山です。

 

福島県川俣町の高太石山 青い屋根のテントが高家先生の工房です

 

― 今も山の中で制作をされているというのは、やはり大学時代の経験が大きいのでしょうか。

 

そうですね、気がついたら戻っていたというか・・・。鮭が源流に戻ったような(笑)

 

 

― 動画に色々な機械が出てきますが、こちらは自前なんですか?

 

自前です。今では小さな工務店ができるくらい機械がありますが(笑)

若い時は機械工具が好きではなくてノミなどの手工具ばかりたくさん持っていたんですが、35歳の時にひょんなことから巨大なモニュメントを制作する助手をする機会があって、そこではエアー工具を主な工具として彫刻していたのです。これまで僕が使っていた電動工具は、機械を休ませながら使用しなければならなかったり、ホコリに弱かったりするものだったんですがエアー工具は、連続して使用が出来てホコリにも強く色々なメリットがありました。そこでの経験にカルチャーショックを受け、見よう見まねで道具をそろえました。失敗もたくさんあって、道具そのものをまともに動かせるようになるまでに何年もかかかって、ようやくあまりストレス無く使えるようになったところです。

 

― 動画では、あっという間に形が変わっていくように見えますが、実際にはどのくらいの時間がかかっているんでしょうか。

 

動画にコアドリルで穴を開ける部分があったと思うのですが、あれは既に開け終わっている部分に機械を通したところなので、すっと入っているように見えますが、20cmくらいの穴を開けるのに、30分くらいかかりますし、途中で刃を研いであげなくちゃいけないので実は何回も中断して出し入れしてるんです。石の場合、割る作業は早いのですが、その他の作業は例えが思い付かない位とても時間がかかります。

 

― 今回の作品「無限のひとひら」は、お父様の墓石だとうかがいました。本物を拝見できていないので机上のお話になってしまい恐縮ですが、たどっていくと表が裏になり裏が表になるこの形が、魂の輪廻転生を意味しているように思えて、タイトルの「無限のひとひら」は、その繰り返し(無限)のひとひら(一片)を終えて、ここに故人が安らかに眠っているということかなと思いました。「ひとひら」というワンオブゼムみたいな匿名性の中にも普遍的なものの持つ意味があるかもと勝手な解釈をしたのですが・・・。

 

タイトルはだいたい後付けで、制作をしている際に浮かんだことだったりしますが、とらえる人の好きなようでかまわないと思っています。でもそうやって思ってもらえるのは嬉しいです。「無限のひとひら」は、最初は蓮の花びらをモチーフにして形を考えたいと思っていました。父がパルプ工場で働いていたので紙で作ったような形を考え、テッシュの箱を帯状に切って考えたりしました。ただの輪ではつまらないので、メビウスの輪にして輪をつまんで持ち上げたら花びらのように見えたのがきっかけでした。

 

― 最後に、動画をご覧になってくださった皆様にメッセージをいただいても宜しいでしょうか。

 

今回の動画はもともと新制作展の展覧会で流す予定で、初心者の方の鑑賞の手助けになればという事で、石彫の工程等知らない人も多いと思うので作業風景を撮影してほしいという依頼で作ったものです。作業を始めてからコロナウイルスの影響で新制作展が延期になり、僕は実家のお墓のために展覧会用の石をサイズダウンした作品を今年はまず制作することにしました。拙い石彫作品ですが、動画の編集にあたられた先輩やサポートの方にはお忙しい中お手を煩わせてしまい申し訳なく思います。個人的にはうまくコンパクトに編集していただきとても嬉しく思います。石彫の世界の一端を感じていただければ幸いです。

 

ー 美しい石彫の制作過程がこんなに過酷だとは・・・。普段は拝見することのできない石彫の世界の一端を、確かに感じました。ありがとうございました。

 

大きな石からうまれたひとひらの花びらは、大空を気持ち良さそうに舞い、まるでたった今そこに舞い降りたかのようです。けれどそれは雨の日も雪の日も永遠にそこにあり続ける、無限のひとひらです。

今は故人と私達を結ぶ道標のように、そっと並んでいます。

もともと山や大地の一部である石には魂を慰める力があるのかもしれません。

先生は今日も山の中で1人、大きな石を彫り続けています。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

来年はギャラリーせいほうで彫刻部の企画展示が開催されますのでお楽しみに♪

 

本年も大変お世話になり、ありがとうございました。

どうか良いお年をお迎えくださいませ。

2021年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

     

                                 事務局 峠

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