事務所日記


彫刻部特別企画2020

~作家それぞれの作品制作風景~

に登場する先生方にお話を伺いました。

こんにちは。新制作協会事務局です。

今回のメルマガVol.4では「彫刻部特別企画2020 ~作家それぞれの作品制作風景~」より、第1弾(木を彫る)小栁順先生の動画をお届けいたしました。

 

6分ほどの短い動画であっという間に終わってしまいましたが、動画の中には秋田県の美しい風景や迫力満点のアトリエの様子など、もう少し色々知りたいな・・・と思い立ち、小栁先生にお話をうかがってみました!

第一弾 《 木を彫る 》 小栁 順 (こやなぎ じゅん)

「栓を抜いた」2020年 

50cm×60cm×170cm)ケヤキ

会員ページ 小栁 順

― 新制作展に出品し始めたきっかけを教えてください。

 

父親が新制作展に出していて、自分が彫刻を始める前から父親が作っているのを見ていました。

自分が彫刻をやることになってどこに出そうかなと思った時に、新制作の良さみたいなものを子供の時からずっと見ていたので新制作に出したいと思いました。

また、大学で一緒に勉強していた仲間たちも新制作に挑戦したいと言っていたので、一緒に挑戦しようと思って出し始めたというところです。初出品は1999年です。

 

― 出品するにあたって、毎年秋田県からの搬入搬出でのご苦労があるかと思うのですが。

 

父親と一緒に協力して出しています。彫刻は一人ではなかなか動かせないところもあるので、学生の時から協力できる人と一緒にやったりしています。また、絵画で秋田県から出している人と一緒のトラックで運んでもらったりなど、工夫しています

会員推挙2017年のオープニングトーク

 ― 小栁先生の作品はストリートダンスを題材にしていらして、若い方への訴求力が高く新鮮な印象を受けます。ダンスをする人のシリーズはどのような点に気をつけてポーズを決めていらっしゃるのでしょうか。

 

ダンスをしている人を作りたいと思う以前に、ダンスってかっこいいなあ、と思っていたのがずっとありました。その後で、見るだけじゃなくて実際作ってみようか、と思って作り始めました。自分が見ていてかっこいいなあ、と思ったその瞬間の動き、彫刻では一瞬のところしか作れないですが、動き回っている感じが伝わるようにと。止まっているような感じじゃなくて、ダンスの動きのかっこよさが伝わればいいな、と思ってポーズを決めています。実際踊っているところや動画を見て、かっこいいところを決めたりしています。

 

― 原木の形はある程度決まっているので、そこにポーズを当てはめるのは大変なのではないかと感じるのですが。

 

かっこいい、作りたいなと思う形と木に入る妥協点というか兼ね合いを、小さいのを作っていきながら考えます。形を落とし込んで、これは明らかに無理だろうという形もあるので、これだったらいけそうだなと思ったら木にして大きいやつに入れていくという感じです。

 

普段は高校で美術の教師をしていて、生徒たちが踊っていたり学校祭に向けて踊っていたりしているのを目にしています。担任などをしていると、クラスの発表などで放課後に生徒たちが練習をしているのを見たりしています。

 

― 作品のタイトルはダンスの楽曲からとっていらっしゃるのでしょうか。

 

そうです。踊っている曲の題名や歌詞からとることもあります。2018年の作品「なぜ隠してしまうのですか」というタイトルも踊っていた曲の歌詞に出てくる言葉で、「ハロ/ハワユ」というボカロの曲です。2019年の「BREEZE」も曲名です。

「BREEZE」2019年

― WEB展覧会にご出品の「栓を抜いた」(50cm×60cm×170cm)もケヤキの大木をダイナミックに使った作品ですね。今回の作品について教えてください。

 

この作品は片足で飛び上がった瞬間の動きを作りました。縮んで塊となった体を伸ばした片足一本で支えている形です。弾んでいるような勢いが出るように考えて制作しました。

 

― 動画を拝見していて、大きな木材を立てたり倒したり、ぐるぐると何度も動かしている様子に驚きました!!

 

特に最初のうちに、どういう風に使おうかと考えている時によく動かします。大きく切り取る時などは倒してでないと取れないこともあるので、わりと最初のうちは立たせたり倒したりを頻繁にします。寝かせた状態が取りやすいですが、良いところまで取れているかとかバランスは立っている状態でないとわからないので、取って立てて取って立ててを結構繰り返しています。

 

― ご自分の制作風景の動画をご覧になっていかがでしたでしょうか。

 

照れくさいのであまり見ていません。撮影している時はだらだらとかなり長い時間撮っていたので、こんなの見て面白いのかなぁ、と思っていました。でも完成した映像を見ると形がどんどん変わっていく様子が面白いなと思いました。自分では時間がかかって制作しているのであまり変化を感じないですが、動画で見ると早送りでポンポン勝手にできていくみたいで面白いですね。

 

― そうでしたか!!普段あまり目にすることのできないアトリエの様子や、先生がどういうところに気をつけて作っていらっしゃるかなどがよくわかりとても楽しい動画だなと感じました。

 

作っているところってあまり人に見せるところではないですよね。きたない恰好でやっているし、途中を見せようと思って作っているわけでもないというところもありますが…。

― 地元秋田県での活動について伺います。国際木彫シンポジウムに参加されたということですが。

 

ちょうど秋田で開催されたので参加できましたが、今後も機会があれば参加してみたいとは思っています。ただ、短期間で作るというのは普段の制作以上に集中力を使うというか、普段の制作とは違うように感じましたが、勉強にはなりました。

 

チェンソーアートに参加する機会があったんですが、それは一日で丸太をチェンソーだけで作っていくというものでした。例えばデッサンで言うと、5分でスケッチする!みたいな、チェンソーでガンガン原木にデッサンを描いていく、みたいな感じです。

迷わず一発で、というのを経験してから・・・制作が速くなりました(笑)

 普段とあまりにも違うので、そんなのできるわけないじゃないかと思っていたんですが、とても勉強になって面白かったです。迷っている暇がないというか、取るところをビシッと取っていかないと間に合わない。

 迷いながらちょっとずつ取っていくんじゃなくて一回で取るので、無駄な作業が減ってぎりぎりのラインを取っていけるようになるというか。そういう経験は普段の制作でも活きています。

 シンポジウムはプレッシャーもすごいですね。ここまでに終わらせないといけないというところも大変だと思います。

 

― 最後に、今後の活動について教えてください。

 

参加している秋田県彫刻連盟の展覧会ですが、今年は中止となりました。来年は実施できればと思っています。制作については、もっと良い作品が作れるよう頑張ります。

 

― 貴重なお話をありがとうございました!!

 

動画のテロップとして流れていた先生の制作に対する姿勢が心に残りました。全文をご紹介させていただきます。

2007年に秋田県で行われた国際木彫シンポジウムに参加する機会がありました。様々な国の彫刻が集まる中で日本的な作品を作りたいと考え、日本の彫刻の中でも特に仁王像や十六羅漢像などの躍動感や迫力のある仏像に心を惹かれて、力強いポーズの男性像を制作し、その後もいくつか制作しました。

またその頃ストリートダンスが流行して学校の授業にもダンスが取り入れられダンスをよく見るようになりました。様々な曲に合わせて踊る姿に、仁王像のような力強さや躍動感を感じて木彫にしたいと思い制作し始め、踊っている人物像を作っています。

学生の頃に国語の授業で夏目漱石の夢十夜の第六夜を習いました。そこには東大寺の金剛力士像を運慶が彫る場面が出てきます。

『その刀とうの入れ方がいかにも無遠慮であった。そうして少しも疑念を差し挟んでおらんように見えた。「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が、「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。』

この話を読んだとき、なるほど大天才はそんな感じで彫って行くのかと思い、想像して木を鑿で彫るのは楽しそうだと思いました。ですが、いまだに自分は制作するときに一度もそんな気持ちになったことがありません。いつも失敗して取り過ぎないよう、おそるおそる木を削っています。いつか漱石の物語のように、土の中から石を掘り出すように制作できればいいなと思っています。

小栁先生の作品からは軽やかな風を含んで踊る若者たちの息遣いまで伝わってくるようです。

踊っている人は激しく複雑な動きをしますが、それは大変な練習と努力を積み上げた末に獲得したものです。しかしその表情はさりげなく、いとも簡単に動いているように見えます。

そういう点も、小栁先生の淡々と制作に取り組む姿に通じるのではないか、などとお話を伺いながら感じました。

 

私はさっそく「ハロ/ハワユ」や「BREEZE」をYouTubeで見てみました。いきいきと躍動感溢れるダンスでとてもかっこよかったです。小栁先生は激しい動きの1曲の中から、そこに埋まってるとびきりの一瞬を鑿と槌で取り出していらっしゃるんだと感じました。

事務局 桑久保

  YouTube彫刻部チャンネル