事務所日記


彫刻部封入作業日!

 8月最終週、皆様に彫刻部WEB展覧会のお知らせを発送する為に、彫刻部代表委員の4名が事務所に集まられました。メンバーはチーフの渡辺尋志先生、玉栄広芳先生、平田義之先生、松枝源太郎先生です。

 

 例年は、もっとたくさんの先生が集まるのですが、今回は密を避けるため少人数での作業です。久しぶりに先生方にお目にかかれたので、彫刻部のWEB展覧会や、今どのように過ごされているかなどお話をうかがってみました!

 

―いよいよWEB展覧会のお知らせの発送ですね!84回展の延期が決まってからWEB展覧会を開催するという決定までに、少しお時間がかかった印象があるのですが、その間どのようなお話合いがされていたのでしょうか。(以下、敬称略)

 

渡辺:そう、時間がかかったよね。まず委員長の瀬辺さんには絶対にやりたいという強い意志があったのだけど、立体を平面で見せるには限界があるし、どうしたら良いんだろうという戸惑いがあった。また松枝さんから、来年の秋に発表をするのなら先にWEB上で公開するつもりはないという意見もあり、すぐに進めていくには色々と考えなければならないことがあった。

 

あとは、作品の写真だけが1箇所に集まることになるので扱いが難しい。会の特徴として、全員で意見を出し合いながら物事を進めていくというのが基本にあるから、WEB展覧会を開催するための準備作業が、会の特徴とあわない部分をどうするかという問題も気になった。でも部会で話し合ってやろうということになり、本格的に動くことになった。

 

―松枝先生が、本展より先にWEB上で作品を公開したくなかったのはなぜですか。

 

松枝:立体を平面で見せることの難しさ以上に、本物を見ていないのに画面を通して本物を見たかのようになってしまうのが違うんじゃないかなと思っていたからです。通常の開催だとHPへの写真の掲載は展覧会開催後になるので、記憶を補完するような意味で良いと思うのですが。画面が本物と捉えられることに抵抗がありました。ただ、今は、美術館での展示はある程度光線が決まってしまうけれど、WEB上では美術館とは違う光線の作品が掲載できるし、他の見せ方もできるのではないかと思っています。

 

平田:画像は作為的な処理ができてしまう部分があるし本物とは違うから、本物を造る人間には違和感があるんですよね。だから応募規定にも書いてありますが、出来る限り加工をしないでその物自体を見せる画像を送って欲しいと思っています。

あと、WEB展覧会を足踏みしていたのは、ネット環境がない方のことを思うと、っていうのがありましたよね。

 

渡辺:そうそう、彫刻部の会員は1/3がネット環境に依存していないから。それに対してWEB展覧会をやるのは失礼じゃないかと。全員が参加してものを決めてくという会の性質を考えると、成立するのかっていう。ただ、部会の開催についても、いつも全員が参加できるわけではなくて、参加できなかった人には議事録を送って情報を共有しているので、WEB展覧会も同様にできるのではないかという考えになったんだよね。

 

平田:本展がないと1年間一般出品者の方と交流がなくなってしまうから、繋がっていたいしコミュニケーションをとりたいという思いもあります。

 

渡辺:いや、2年だよ、前回の開催から考えると。あとは見に来てくれる人ともだよね。延期のお知らせハガキを作ったのは、一般の出品者、それから見に来てくれる人、関わってくれる人全員と繋がりを保ちたいっていう思いがあって、(一般出品者と会員を同時に展示することも含めて)やっぱり出来る限り本展と同じような形をとりたかったから。

 

― 締切が9/30で開催が10/10という日程はかなりハードだと思うのですが、作業の段取りを伺ってもよいですか。

 

渡辺:どうしようかと思っています(笑)応募者の人数がわからないから業者さんにも頼み辛くて。自分達でやることになるんじゃないかな。

 

― 画像の調整とか、大変ですよね? 

 

渡辺:それはね、そんなに難しくないよ。

 

平田:今、渡辺さん家で引きこもりって言われてるから(笑)

 

全員:

 

― 最後に、今、働き方や生活様式が変わったり、色々な変化の中で迷いながら制作をされている方も多いかと思います。先生方がどのように制作に向かっていらっしゃるか、気持ちの持っていき方など何でも良いのでうかがっても良いでしょうか。出品者の皆様の励みになればと思うのですが。

 

(ここで、う~ん、と暫しの沈黙)

 

平田:本展の開催が延期になったことで、ガクッとモチベーションは下がりました。毎年、本展に向けて新しい挑戦をしたいと思ってやってきたから。でも今は立ち止まって見直すつもりで、小さいものを作って、そこで手ごたえというか新しいものを見つけられたら良いな、という気持ちで制作しています。

 

渡辺:新制作展は作家の意志で開催できる展覧会だから、それが美術館を使用できないとか、(原因が外側にあって)自分達の力で動いてきたものがとめられてしまうとガクッと気持ちが落ちる。私も緊急事態宣言の出た翌日から百貨店で個展の予定だったんだけど、それは画廊から作家にアプローチがあって動いていくもので、団体展が美術館で展覧会をやることと気持ちのもっていきかたが違うんだよね。個展のほうは、ダメになっても仕方ないと思えたんだよ。多分、団体展の人たちはこの1年間、気持ちをどうもって行けば良いか、と思っている人たちが多いんじゃないかと思う。

 

松枝:モチベーションは確かに下がりましたよね。

 

玉栄:私の場合は、展覧会ができません、といわれたらそれは仕方ないと言わざるを得ない。自分としては展覧会があろうがなかろうが制作はする。制作に対する意欲そのものは全くかわらない。落ち込んでいると、そういう仕事しかできなくなってしまうからそこは気をつけてやっています。

 

渡辺: 彫刻家は基本的に器用だと思う。物を作ったりすることが好きだし、作るのが好きじゃないとできない仕事だから。形があるもの、つかめるものを作るのが彫刻家。だから、それを楽しむ。身近に当たり前に思えるようにいてほしい。彫刻部の会員で、自粛中にミシンを買ってマスクを作った人もいて、ミシンを買ったら扱える(器用さがある)のが彫刻家だと思う。もし、今作品を作りたくてもアトリエにいけない状況にいる人がいたら、そういうことをしてみなって言いたいかな。作るのを辞めないで欲しい。そうしたら、またできるから。

 

玉栄:私は上京した頃にありとあらゆる団体展をまわって、新制作展に衝撃をうけました。美術の教科書で教えられていることが全てそこに詰まっていた。創立会員にすごく憧れがありました。最初は落選ばっかりで、でも私は気が小さいから、先生になんで落選するんですかって聞けなかった。それでとにかく入選しなくちゃっていう反骨精神が湧いてきた。入選するのに10年かかったけれど物を作るのが好きだから続けてこられた。サラリーマンをしながら傍らで作品を作って、やっと入選して先生の生の声を聞けたことがとても嬉しかった。でも先生から「お前の作品のどこに感動があるんだ」といわれたこともある。(物故会員の大御所のお名前がでて、一同笑。会員あるあるの愛のムチのようです)でもそれをバネにしてやってきた。続けることです。なんでこんないい作品を作っていた人が出品をやめちゃうんだろう、ということもある。でも長い間充電期間を置いてまた復帰してくる。そういうことも新制作の良さだな、と余計に嬉しくなったこともあります。私は会に対して憧れがあったから続いた、憧れがなかったら続かなかった。

 

平田:僕も最初はありました。あの人の隣に自分の作品を置きたい、話を聞いていたい、一緒の空気を吸いたいっていうか。それが新制作に出品するきっかけにもモチベーションにもなった。公募展の会場をたくさん回って、新制作は空気が違う。会場がピリっとしていて、厳しいところに自分も身を置きたいと思った。コロナの影響もどうなるか見えない、世の中どう変わっていくか先も見えない、彫刻家もこの先ポーンと飛んで変われるか、それは絶対ないと思う。日々継続していくことだけでしか変われないと思うんですよ。足元をみて立ち位置を確かめて作り続けることしかない、それが一番。

※第44回新制作展会場風景(東京都美術館)新制作50年史より

松枝:僕は新制作に出して、誰かに講評して貰えるっていうこと以上に、その中に並べたことで自分で感じることが大切というか、新制作の全体観の中で作品をみるのが自分にとってはすごい大事だなって思ってて、そのために新制作に出しているという側面があります。

 

渡辺:会場の雰囲気だよね。作品の並んだ雰囲気とか、やっぱり会場を見て回った時にしっくりくるというのはある。松枝さんなんかは特に、作品の方向性として石膏で白い作品を会場に出して、会場の雰囲気の中で自分の作品をしっかり見たいという考えがあるんじゃないかな。人それぞれ感じ方があるよね。



  実は今回、先生方にぐいぐい迫ってコメントをいただいた節があり、途中で渡辺先生が「同じ枠の中に当てはめて考え方を伝えたりすると会社みたいになっちゃう。囲いを取り払うのが作家だから励ますとかは難しいな」と仰っていました。後で、あの沈黙はそういうことだったのか、と私自身が囲いの中から質問をしていたことに気がつきました。いつも見た気になったり、解った気になっていることばかりです。それでも私達の言わんとすることを真っ直ぐ受け止め、とても大切なことをお話してくださったのだと感じています。

 

 今年は残念ながら、作品を触ったり匂いを嗅いだりできませんが、プロセスやちょっぴり裏話にふれていただくことでWEB展覧会を身近に感じていただけましたら幸いです。

 

●彫刻部WEB展覧会は10/10から2021年1月10日まで開催予定です。

 

 後日、WEB展覧会の試作を見せていただきました!う~ん、かっこいい・・・。早く本物が見たい!この作品のここが見たい、の予習にもなるかもしれません。開催が楽しみです♪

 

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました! 

 

事務局 峠